ボロニア宣言

動物実験の削減、純化、及び置き換え代替法および実験動物法 第三回生命科学における代替法と動物使用に関する世界会議において採択(1999, 8,31イタリア、ボロニア)

(翻訳 大野泰雄)

Russell and Burchの「三つのR」、即ち削減(Reduction)、純化(Refinement)、および置き換え(Replacement)の源は1954年に開始された動物福祉のための大学連合(University Federation of Animal Welfare: UFAW)の活動にある。これが1959年にW.M.S.Russell and R.L. Burch (1)による「人道的な実験技術の原則(The Principles of Humane Experimental Technique)」の公刊につながっている。1978年にDavid Smythが代替法を三つのRとして定義して使用した(2)。
著書の中で、Russell と Burchは「科学における最も偉大な業績は常に最も人道的であり、かつ最も美的に引きつけるものであり、最も成功した時には科学の枢要である美しさと優雅さを感じさせるものである。」と述べている。彼らは以下のように定義している。
代替法における削減(Reduction Alternatives)とは科学的手法においてより少ない動物から同等の情報を得るための方法、あるいは同じ数の動物からより多くの情報を得るための方法である。
代替法における純化(Refinement Alternatives)とは痛みや苦痛、及び不快感を弱めたり、最少限にし、動物の福祉を向上させるものである。
代替法における置き換え(Replacement Alternatives)とは動物を用いた実験や他の科学的な手段を用いずに当初の目的を達成するものである。

  • 1. Russell, W.M.S. & Burch, R.L. (1959). The Principles of Humane Experimental Technique. 238pp. London: Methuen.
  • 2. Smyth, D. (1978) Alternatives to Animal Experiments. 218pp. London: Scolar Press.

第三回生命科学における代替法と動物使用に関する世界会議の参加者は1959年にRussell & Burchにより提起された原則を承認するとともに再確認するものである。人道的な科学とは善なる科学のための前提であり、かつ実験動物手法に関しては、三つのRを強力に推進し、適用することにより達成されるものである。
三つのRは、全ての種類の科学、経済及び人道主義的な便益を得るに際しての統一概念として、挑戦目標として、また、それらを得る機会として役立てるべきである。
三つのRについてのボロニア宣言の背景

動物実験の削減、純化、及び置き換えについての結論と勧告

第三回生命科学における代替法と動物使用に関する世界会議において採択
(1999, 8,31イタリア、ボロニア)

実験動物を用いた手法は過去において生物・医学研究、また、様々な種類の化学物質や製品の安全性や有効性評価に大きな貢献をしてきた。脊椎動物を用いたこのような試験の内のあるものは予測しうる未来において、人類や他の動物の利益のために、引き続き必要であろう。

三つのRの起源

現在、Russell and Burchの「三つのR」、即ち削減(Reduction)、純化(Refinement)、および置き換え(Replacement)の源は1954年に開始された動物福祉のための大学連合(University Federation of Animal Welfare: UFAW)の活動にある。これが1959年にW.M.S. Russell and R.L. Burch (1)による「人道的な実験技術の原則(The Principles of Humane Experimental Technique)」の出版につながっている。
RussellとBurchは、代替法における削減(Reduction)とは「特定の量および精度の情報を得るのに必要な動物数」を減らすための手段であり、純化(Refinement)とは「動物使用が避けられないときにその使用方法について非人道的な操作を減らしたり、その残酷さを減らす」ことに役立つ全ての進歩であり、置き換え(Replacement)とは「動物実験の歴史において行われてきた、意識を有する生きた脊椎動物を用いる方法を感覚のない材料を用いる科学的な方法に置き換える全ての方法」、と定義した。彼らは主なメーセージを以下のように要約した。
もし、我々が行うべき実験を選択する基準を持とうとするならば、多分、人間性という基準が我々が作成することのできる最良のものである。
科学における最も偉大な業績は常に最も人道的であり、かつ最も美的に引きつけるものであり、最も成功した時には科学の枢要である美しさと優雅さを感じさせるものである。

三つのRの受け入れ

1960年代の間は三つのRの概念は比較的わずかしか注目されなかった。しかし、1970年代には多くの有意義な発展が認められた。その内には研究防御学会(Research Defence Society)のためにDavid Smyth教授が行った動物実験代替法についての調査結果の出版がある。この中で彼は代替法における三つのRについて定義した(2)。
動物実験への需要に置き換えることができる全ての方法、必要な動物数を削減できる全ての方法、ヒトや他の動物の必須の必要性をかなえるために動物が被る苦痛や不快感を減らす全ての方法。
1980年代には三つのRについての多くの国内及び国際的な法律や協定が特にヨーロッパにおいて導入された。それらのうち主なものには以下のものがある。

Council of Europe Convention for the Protection of Vertebrate Animals Used for Experimental and Other Scientific Purposes (3), Council Directive 86/609/EEC of 24 November 1986 on the Approximation of Laws, Regulations and Administrative Provisions of the Member State Regarding the Protection of Animals Used for Experimental and Other Scientific Purposes (4).

1986年には米国議会の技術評価室(US Congress Office of Technology Assessment)が研究、試験及び教育における動物使用の代替法についての報告(3)を作成した。この中では代替法における三つのRの概念について幅広く概観され、その潜在的な価値について詳細な証拠が提供された。一方、1985年には医科学国際機構会議(Councilof International Organization in the Medical Sciences:CIOMS)が一連の動物使用を伴う生物医学研究の手引きとなる国際的な原則を公刊した。

現在の三つのRの概念

1980年代の終わりまでには、新しい法律やガイドラインが世界のいくつかの地域において設定された。これらは単にRussell and Burchの概念を認めただけではなく、法的及び道徳的な義務として、すべての関係者に実験動物を用いる手法を可能な限り削減、純化、及び/或いは置き換えることを課する物である。
1990年代の終わりまでに多くが達成された。しかし、引き続き当面の間、三つのRが普遍的に実施されるようにすることが実験動物を使用する研究、試験、及び教育に、どんな形であるにせよ、関与するすべての者が直面すべき主たる課題であり続けるであろう。
第一回生命科学における代替法と動物使用についての世界会議(World Congress on Alternatives and Animal Use in the Life Sciences)は1993年に米国のボルチモアで、次いで、第二回は1996年にオランダのユトレヒトで開催された。イタリアのボローニアで開催された第三回の国際会議の実行委員会は、The Priciples of Humane Experimental Techniqueが刊行されてから40周年にあたる記念すべき年である1999年8月31日に会議参加者の前にこの宣言を提示した。この宣言はヨーロッパ代替法バリデーションセンター (European Center for the Validation of Alternative Methods :ECVAM)とジョンズホプキンズ大学の動物実験代替法センター(Center for Alternatives to Animal Testing : CAAT)の主催で1995年5月30日から6月3日までイギリスのSheringhamで開催されたワークショップ「The Three Rs: The Way Forward」の結論と勧告に基づくものである。

結論と勧告

法的な規制と科学的及び倫理的正当性

  • 1.全ての国が全ての研究・試験・教育に3Rの原則を積極的に組み入れるための法的な枠組みを作るべきである。
  • 2.実験動物の保護に関する法律、ガイドライン及び規制の精神と条文の遵守を確保するために、どのような形であれ動物実験に関わるすべての科学者や行政官の全てに教育や訓練を行う公式あるいは非公式の機構が無くてはならない。
  • 3.全ての動物実験はその科学的および動物福祉の両面について、事前に整備された専門家により独立した審査を受けなくてはならない。
  • 4.審査委員会がその試験の遂行を承認するか否かを決めるための審査においては、提案された試験計画の結果得られる利益とそれに伴うことが想定される動物の苦痛の両方を評価し、計ることが重要な部分を占めていることを認識すべきである。
  • 5.どのような利益が得られることが想定されされたとしても許されるべきでない動物の苦痛のレベルについての国際的な合意があるべきである。
  • 6.科学的に現実的なしかしより厳しい実験動物に対する規制を避けるために動物実験を他の国に依頼することを受け入れるべきではない、とされるべきである。削減代替法(Reduction Alternatives)
  • 7.削減代替法という用語は科学的試験法においてより少ない動物で同等レベルの情報を得る方法、あるいは同じ数の動物でより多くの情報を得るための方法を意味している。
  • 8.種の選択が可能な場合においては、大きな動物よりも多くの小さな動物種を用いることを科学的に正当化するものはない。
  • 9.行政的目的で実施される試験法のデザインは要求されるサンプルの大きさも含め、継続的な国際的なハーモナイゼーション過程の一部として定期的に見直されるべきである。
  • 10.すべての研究者は実験デザインと統計的方法の正しい使用のための訓練を十分に受けるべきである。

純化代替法(Refinement Alternatives)

  • 11. 純化代替法とは想定される痛みや苦痛を消失させたり、最小にするとともに動物の福祉を向上させる方法である。痛みは障害や手術、また、疾患・ノより実際に起こされた、あるいは起こされたと思われる組織障害の結果として現れるものであり、苦悶(distress)につながり得るものである。苦悶とは動物がストレス誘発原因に完全には適応できず、結果としてもたらされるストレスに適応できない状況である。苦しみ(Suffering)とは被り、経験している、または受けている痛みや苦痛、および/あるいは持続的な危害を指す一般的な用語である。
  • 12. 動物の痛みや苦痛、および他の有害作用の分類についての国際的に合意されたガイドラインが存在すべきである。これには有害作用を認識やその測定のための生理学的・行動学的な徴候についての合意を含むものでなくてはならない。
  • 13. 個人や機関は、個々の試験計画において使用される動物が実際に経験する、あるいは経験すると思われる有害作用の性質とそのレベルをそれぞれの国家当局が予見におよび回顧的に評価することについて責任を持たなくてはならない。
  • 14. 純化と動物福祉についての研究は奨励されなくてはならない。また、資金を与えられなくてはならない。この研究には痛みや苦痛を最小にすることを目的とする手法の作成されるデータの質への影響に関する研究も含まれる。置き換え代替法(Replacement Alternatives)
  • 15. 置き換え代替法とは特定の目的を動物を用いて行う実験や他の科学的な手法を用いずに達成するための方法である。
  • 16. 置き換え代替法の範疇には以下のものが含まれる。
    • a.既に行われた動物実験情報の保管、交換、及び使用の改善。このことにより不必要な試験の繰り返しが避けられる。
    • b.物理的・化学的手法の利用、及び分子の物理的及び化学的性質に基づく予測法の利用。
    • c.数学的及びコンピューターモデルの利用。これには構造活性相関モデル、分子モデルおよびコンピューターグラフィクスの利用、また、生化学的、薬理学的、生理学的、毒性学的及び行動学的過程のモデルの利用を含む。
    • d.知覚機能の乏しい、より低級動物の使用(例、無脊椎動物、植物、微生物)。
    • e.脊椎動物発生の初期段階、即ち、実験や他の科学的目的のためへの使用が制限される時点に達する前の段階での使用。
    • f.短時間維持が可能な潅流臓器、組織スライス、及び細胞懸濁液、適正な細胞や組織培養を含むin vitro試験法の利用。多くのin vitro試験においては特に倫理的、法的、及び安全生の問題が満足されているならば、実験動物から分離したものよりもヒト由来の細胞や組織を優先して使用すべきである。
    • g.ヒト試験。これには疫学や市販後調査、及び倫理的に承認された志願者の使用が含まれる。
  • 17. 行政的な有効性、安全性、及び毒性試験の場合においては、妥当性の確認された置き換え代替法を提供することを特に目指した研究を奨励すべきであるし、また、それに資金提供を行うべきである。
  • 18. 理想的には置き換え代替法の発展は測定あるいは研究する現象の基礎となっている分子及び細胞機構についての十分な理解に基づくべきである。
  • 19. 多くの状況に置いて、動物を用いた試験は単一の置き換え代替法により置き換えることはできないと思われることから、段階的な試験戦略や複数の試験を統合した試験スキームの開発やその評価及び最適化についての研究も奨励されるべきである。
  • 20.妥当性について満足すべき結果の得られた置き換え代替法の受け入れと使用、及び同等の動物試験法の使用停止は選択肢としてではなく、要求項目とすべきである。教育・訓練
  • 21.動物や代替法の使用についての正しい姿勢をもたらすことに寄与することを目的とする教育と、正しい動物の世話や使用への寄与や質の高い実験を確保するための訓練を明確に区別すべきである。
  • 22.行政当局はどのような形であれ、実験動物使用を伴う作業に従事するものが認可されたコースを受けるように要求すべきである。このコースは三つのRと置き換え代替法を可能な限り使用するという法的な義務を強調されているものである。
  • 23.学校や大学、大学院の学生は定められた過程を実行するように強制されてはならず、選択肢としての代替法を提供されるべきである。

結論

第三回生命科学における代替法と動物使用に関する世界会議の参加者はRussellとBurch (1)が1959年に提案した原則を支持し、人道的な科学のみが良い科学であり、良い科学は三つのRを厳格に促進し適用することにより最も良く達成されるものであることを再確認した。
唯一許容される動物実験は倫理委員会により認められたものであり、科学的目的の達成に矛盾しない限り、動物使用数を可能な限り削減し、起こりうる苦痛を最小にしたものである。
三つのRは統一的な概念として見なされるべきであり、すべての種類の科学的、経済的及び人道的な利益を得るための挑戦であり、機会であると見なされるべきである。

引用文献

  • 1.Russell, W.M.S. & Burch, R.L. (1959). The Principle of Humane Experimental Technique. 238pp. London: Methuen.
  • 2.Smyth, D. (1978). Alternatives to Animal Experiments. 218pp. London: Scolar Press.
  • 3.Council of Europe. (1986). European Convention for the Protection of Vertebrate Animals Used for Experimental and Other Scientific Purposes.51pp. Strasboug: Council of Europe.
  • 4.EEC. (1986) Council Directive of 24 November 1986 on the approximation of laws, regulations and administrative provisions of the Memver States regarding the protection of animals used for experimental and other scientific purposes. Official Journal of the European Communities L358, 1-29.
  • 5.US Congress. (1986) Alternatives to Animal Use in Research, Testing and Education. 441Pp. Washington, DC: US Congress Office of Technology Assessment.
  • 6.Howard-Jones, N. (1985). A CIOMS ethical code for animal experimentation. WHO Chronicle 39 (2), 51-56.
  • 7.Balls, M., Goldberg, A.M., Fentem, J.H., Broadhead, C.L., Burch, R.L., Festing, M.F.W., Farzier, J.M., Hendriksen, C.F.M., Jennings, M., van der Kamp, M.D.O., Morton, D.B., Rowan, A.N., Russell, C., Russell, W.M.S., Spielmann, H., Stephens, M.L., Stokes, W.S., Straughan, D.W., Yager, J.D., Zurlo, J. & van Zutphen, B.F.M.(1995). The Three Rs: the way forward. ATLA

日本動物実験代替法学会
小島 肇